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近親姦虐待の被害当事者たちがつながり・語り・学び合うためのセルフヘルプ・グループです。

短編集コラム

命を奪う夏の思い出(1)

VC・アンドリュースという作家が描く小説が好きで、よく読んでいた。

作者のアンドリュースは、人にとって最も恐ろしいことは衣食住を脅かされることだと書いていた記憶がある。
特に、食べ物が手に入らない状態に陥ることの恐ろしさにこだわっていた。
彼女の作品、「屋根裏部屋の花たち」「ヘヴン」などにも、周囲から援助を得られない子ども達が飢えの恐怖に晒される情景描写は、生々しく衝撃的だった。

深刻な飢餓状態に晒された事はないが、近い状態になったことはある。

小学校3~4年生くらいだっただろうか。
母方の親類が危篤になった等の理由から、中国地方に連れて行かれた事がある。
見舞いと旅行も兼ねた様な夏休みのことだ。

私と妹と母親と母方の祖母、数人の親類と向かった先は、平屋の古い一戸建てだ。
母親や祖母は親類の女性達と懐かし気に話していたが、私には知らない人ばかりだった。
(私にはこういう事がたまにある。よく遊んでくれた親類の女の子達と言われても、全く覚えていないのだ)

数日の滞在予定ということで、この一戸建てに連れてこられた。
周囲は田んぼばかりで、まさに田舎の一軒家という感じだった。
倒れて入院したという親類の男性を見舞いに行き、目的が達成されたので、私も含めた一同がまた平屋に戻った時の事だ。

昼食を摂る為に、母親、祖母、親類女性達一同が相談しあっている。
子どもながらに当然期待を抱いた。外食は大歓迎だった。
私にとっては、映画と同じように一大イベントだった。

ところが “留守番”という名目で何の説明もないまま、私たった一人が平屋に残されてしまった。
問答無用、理解もできないまま、一人でぽつんと残されてしまったのだ。
そんな私を省みることもなく、大人たちは車で去ってしまった。

周囲には本当に何もなく、田んぼからは蛙の声、奥の雑木林などからは蝉の声。
日差しが細いアスファルト道路をじりじり焼いていて、車も人も全く通らない。
私は深く考えもせず、<すぐに大人たちは帰ってくるだろう・・・>と、待ち続けた。
家の中でのんびりごろ寝したり、強い日差しの中で座り込んだりした。
退屈でたまらなかった。

少し不安な気持ちになってきたのは、空腹を覚えてからだ。
慌しく出発した大人たちが戻ってこないので、食べ物が無い。
お金も持っていないし、仮に持っていたとしても店など何処にも見当たらない。
日が高くなるにつれて、空腹というより痛みに近くなっていたと思う。
誰も帰ってこない・・・恐怖心さえ覚えた。

時間にしたら、お昼をとっくに回っていた頃だろうか。
やがて母親、祖母を含めた一同が帰宅した。
私には解らない外出先の出来事を、楽しそうに話していた。
この日は何とか食べ物をもらえたのだが、ほとんど軽食といった程度のもので、とても満腹できるような量ではなかったのを覚えている。

翌日、翌々日も、一同は私を残して出発してしまう事が続いた。
何故、私だけが一人で残されるのか?全く解らなかったし、今も理由は不明だ。
ただ、私が存在すると、皆の楽しい時間に水をさすということだけは解る。
存在そのものが、他者の不快、不愉快、生理的嫌悪感を引き起こすからだ。
特に、母方の親戚や母親の旧友達の目は、父方、父親寄りの子どもという視点で見られがちで、私への扱いはぞんざいな事が多かった気がする。

二度目に置いて行かれた時は、退屈と不安と寂しさとイライラと空腹から、蟻を見つけては踏みつけたり、巣を壊したりしていた。
迷い込んだ蝶の羽をむしったりもした。

空っ腹に痛みが加わりだす頃、田んぼの脇にいる蛙に目がいった。
緑色、茶色の小さな蛙達は、すぐに素手で捕まえる事ができた。

蛙のまるまるしたお腹、無表情な黒々した目、無抵抗さが異常に憎かった。

私は一匹を道路に叩きつけ、足で踏みつける。
また捕まえては空中高く放り上げ、道路に激突させた。
蛙の白い腹に爪を入れて生殺しにして放置した。

捕らえた蛙は泣き声一つ上げない。
命乞いもしない。
仲間が死んでも動じない。
気付きさえしない・・・。

蛙はいくらでも捕まえる事ができた。
道路には干からびた蛙の死骸がこびりついていて、暑さで次々と乾燥していった。

やがて日がもっと高くなり、傾き始める頃、大人たちが帰ってくる。
皆、機嫌が良い。
私一人が空腹を抱えていて不機嫌だった。
限られた空間と人数の中で、自分一人だけが空腹、不満足という思いは、学校や近隣で孤立して浮き上がっているのとは、また別の惨めさだった。

この日も何か食べたと思うが、何とも言い難い気分はおさまらなかった。

私の外側は無表情で無抵抗で無口で従順だった。

(2)に続く・・・

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