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近親姦虐待の被害当事者たちがつながり・語り・学び合うためのセルフヘルプ・グループです。

短編集コラム

「少女Kの隠れた犯罪~ある子どもの罪と罰~」(1)

*はじめに*
今回は一人称ではなく「少女K」という三人称で書きました。
一人称で書き出すと、細かいエピソードを思い出してしまい、書き上げることが難しかったのが理由です。
文中、特定を避ける為に、いくつかぼかしている箇所、教師や同級生に家の内情を告発したり相談したりした箇所は省きました。(けい)

***

少女Kは中学生になっていた。
小遣いで十分釣りがくる値段の農薬を近所の花屋で二本購入した。
自分以外の家族三人、父親、母親、妹をまとめて毒殺する計画を立てていた。

農薬を食べ物に混入した時の臭い、味、及ぼす影響、致死率・・・
必要量はどれくらいなのだろうか。
一本丸ごとか数滴でよいのか。
見当がつかない。
少女Kは情報を得るために実験が必要だと判断し、行動に移すことにした。

犬や猫は実験に適さない。
死に至らなくても泡を吹いたり痙攣されては目立ってしまう。
誰も大して気に留めない生き物がいい。
昆虫は反応が見えにくい。
小鳥か魚かネズミあたりが望ましい。
少女Kは当時飼っていた小動物を実験台にすることに決定した。
同種類が複数いる中から一匹を選び出した。

新緑が美しく土のにおいが濃くなり、少し汗ばむ季節になっていた。
少女Kは行動を開始した。

購入した農薬を、習字用スポイトと携帯用の噴射式香水瓶に詰める。
ペットの世話を焼くふりをしながら、家人がいない時を見計らい目を付けたペットに軽い刺激を与える。
威嚇させ口を開けさせる為だ。
ペットが刺激に反応して口を開いた瞬間、口腔内に農薬を噴射させた。
まとまった量がなかなか口に入ってくれずに苛々し始める。
何度か繰り返すと、ペットはちょっとした刺激で大口を開ける。
しかも長く開けることが確認できた。
少女Kは気をよくした。
今度はスポイトでペットの口に農薬を流し込んでみた。
しばらく様子を見ていたが、ペットに何の変化もない。
その日は休憩をとりながら何度も農薬投与を繰り返した。

夕方、家族が帰宅した。
少女Kの胸中は穏やかではなかった。
自分の実験が家族にばれるのではないか?と心配していた。
だが誰にも悟られることはなかった。

少女Kは週明けのことも考えていた。
学校も別の苦痛の場だ。
クラスではいじめが横行していた。
少女Kは物心ついた時からいじめられて過ごしていた。
周囲が呆れ返る程のいじめられぶりだった。
本人も周囲の人間も、原因は少女K自身にあると考えていた。
実際に少女Kは人の神経を逆なでするような所が多々見られた。

少女Kが小学生の頃、体調不良で一週間以上学校を休んだことがある。
同級生の女子達がクラスの男子達から預かった手紙を持ってきてくれた。
「少女Kがいないとクラスでイジメができなくて困る。楽しくない。
だから早く身体を治して出てくるように。みんな待っているから。」
という内容だった。
少女Kは手紙を届けてくれた親切な同級生達に感謝した。
自分の復活をクラスでは望んでいる!と誇らしく思い、嬉しさを感じた。
手紙を送り届けてくれた同級生達も“早く良くなるように”と励ましてくれた。

彼女達の帰宅後、少女Kは母親に手紙を自慢した。
一緒に喜んで欲しかったのだ。
だが母親から罵声を浴びて軽蔑された。
「あんた、馬鹿じゃないの?」
少女Kには母親の言っている意味も、同級生達の意図も呑み込めなかったのだ。
理由が解らないまま深く傷つき、萎縮していた。
少女Kは解らないものを追求しようとはしなかった。
いつもの様に独自の解釈で自身の内側に深く埋没させていった。

少女Kが農薬効果の実験台にしたペットは、その後も特に変わりは見られなかった。
もっと効果の高そうな農薬を検討していた頃、異変は突然訪れた。

ある朝、少女Kが実験用に選んだペットが死んでいた。
何の前触れもなかった為、少女Kはうろたえた。
両親はペットの死を一足先に知っていた。
居間で深刻な顔をしている両親の元に少女Kは駆け込んだ。

何故ペットが急に死んだのか?両親の疑惑の目が少女Kに向く。
二人の冷ややかな対応に、少女Kは金切り声を上げた。
少女Kはペットの予測外の死に動揺した。
また、自分の動揺に無関心な両親にショックを受けていた。
結局、少女Kは一人でペットのぐったりした死骸を庭に埋めた。
少女Kにとって死骸は生臭いただの塊でしかなかった。
埋葬は単に面倒な作業にしか感じられなかった。
少女Kは無表情で無感情に戻っていた。

シャベルで土を掘り返しながら、少女Kは思った。
“何だ、あの農薬、ちゃんと効果があったじゃないか。”
ペットの死骸は実験の効果が出た証拠でもあることに気付いたのだ。
重たい気分とは裏腹に少女Kは安堵した。
口の端が少し上がるのを感じた。

つづく

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