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近親姦虐待の被害当事者たちがつながり・語り・学び合うためのセルフヘルプ・グループです。

短編集コラム

「少女Kの隠れた犯罪~ある子どもの罪と罰~」(2)

(1)からのつづき・・・
*フラッシュバックを起こす可能性のある分が含まれています。

少女Kを取り巻く環境は、ますますひどくなっていた。
同級生達の嫌がらせ、からかいは日を追うごとに精神的苦痛と屈辱を増した。
また少女Kの父親にも少しずつ変化が見られた。
仕事先から帰宅後、酒に酔っては寝室に少女Kを呼びたてる。
父親と入浴を共にすることを苦労して激減させたのに、別の形で少女Kに接近し始めていた。
ふざけたフリをしながら父親が勃起した性器を身体に押し付けてくるのは、吐き気を催す。
反面、少女Kに対して褒め言葉や不自然な高評価が散りばめることもあった。
それは少女Kのちっぽけな自尊心をくすぐった。

だが父親のエスカレートしてゆく性的接触は本能的に危機感を覚えていた。
少女Kが父親の寝室からの呼び出しを拒否すると、母親は「お父さんが呼んでるよ」と少女Kを急かした。
父親のべたついた接触が嫌でたまらず、母親にこぼすと必ずこう言われた。
「家族なんだからいいじゃないの」。
何かにつけて”家族”という言葉を使われる。
少女Kは全ての人間に欺かれている様な気持ちになる。

少女Kは未熟で無感情で知能が同級生達より劣っていると思われていたが、もう中学生だ。
父親の接触の仕方が家族だから許される範疇ではないことには気付いていた。
どこかで手を打たなければいけない。
少女Kは焦りを感じていた。

少女Kには比較的新しい嫌な記憶も残っていた。
少女Kに生理が始まった頃、父親との入浴を自ら拒んだ時のことだ。
父親には言えなかったので、母親に入浴を別々に行いたいと頼みこんだことがある。
母親は少女Kを心底軽蔑してこう答えた。
「お父さんに、今日は生理だから入れませんって自分で言えばいいじゃないの」
何故自分が言わなければいけないのか。
少女Kには理解できず、解明しようとも思わなかった。

しかしある時、少女Kは思い切って学校の少女達に相談を持ちかけた。
少女達は父親とまだ一緒に風呂に入っている少女Kを侮蔑しながらからかった。
少女Kは、生理中でも父親と共に入浴することが避けられないのだ、と告白すると今度は沈黙された。
一人の少女が一言つぶやいた。
「生理が始まった段階で、普通、お母さんが止めるでしょ?(父親との入浴)」
少女Kが母親の対応をしどろもどろに説明すると、全員に異様な空気が流れた。
帰宅した少女Kはそのまま母親に伝えた。
少女Kと父親の共に入る入浴回数は激減した。
娘の少女Kの訴えは届かないが、他の家の子どもの声はすぐに両親を動かした。
少女Kは歪な嫉妬心を感じていた。

いつ頃からか、家事労働の補助は少女Kの責任と仕事でもあった。
中学に入った頃から本格的に担うようになった。
夕飯用の炊飯器で米を研ぎながら、少女Kは緊張していた。
ペットで実験済みの農薬を米の中に混ぜいれたのだ。
液体は黄味がかった透明色だ。
臭いも殆どない。
少女Kは原液を自分の舌に少しつけてみた。
刺激が強い。
慎重に、少しずつ、研いだ米の中に流し込んでみた。
ご飯が炊き上がる時に異臭がするかも知れない。警戒した。
混入量の加減に全神経を集中させた。
混ぜ終わると、農薬の容器を自室に持ち帰った。
人目に付かない様に、本棚の奥に押し込んだ。

その夜、いつも通りご飯は炊き上がり食卓にのぼった。
少女Kは白飯の色や臭いを観察した。
特に変わったところはなかった。
張り詰めた緊張の為、少女Kは本当に食欲がなかった。
何よりも自分が死ぬわけにはいかない。
白飯をかきこむ母親と妹を見ていた。
父親は酒を飲みながら、つまみをつまんでいた。
父親は晩酌後に軽い夕飯を摂る。
だが、誰にも何も起こらなかった。
少女Kは無力感と疲労を感じていた。
何も起こらないなんて。
たまらなく悔しかった。

しかしまだ解らない。
少女Kは考えを巡らした。
あの実験したペットだって最初は何でもなかったじゃないか。
何日か過ぎたら効果が出るかも知れない。
日を追うごとに一人、また一人、気付いたら死んでゆくかも知れない。
そう考えると気分は高揚した。
恐怖感より好奇心やワクワクした気持ちでいっぱいになる。
だが少女Kの期待通りにはいかなかった。
家族は死に至るどころか、ちょっとした体調不良を起こす者さえいなかった。
少女Kの敗北感、絶望感は大きかった。

少女Kは農薬と致死の関係について頭をしぼった。
量の調整か、農薬そのものを変更するべきか。
もっともっと情報が欲しい。
実験データーが欲しい。
勝利感、達成感、幸福感、充実感が欲しい。
これらを自在に操れる知識と力が欲しい。
同じ店から購入することは危険だ。
ではどうするか?少女Kの頭は回転した。

つづく

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