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近親姦虐待の被害当事者たちがつながり・語り・学び合うためのセルフヘルプ・グループです。

ヒラケトビラコラム

学問のおすすめVol.2

このシリーズは、2011年夏頃から10回に渡って、あるNPO法人の会報に寄稿した体験談を、再編して掲載しています。

***

先日、実家に3年ぶりに帰省した。
ひとりで行く勇気がなく、姉に付き添ってもらった。

このことをシェアしてから、なぜあんなに強く実家に帰りたいと思ったのかを考えた。
多分、また新しい幕が開こうとしているからだと思う。

3月11 日の天変地異を目の当りにして、後悔する生き方をしたくないと考えていたからだとも思う。

2007年春、私がクリニックに通い始めた頃、父や母にこの世からいなくなって欲しいとシェアしていた。
とにかく、私の頭の中から、いまわしい記憶全てを取り除きたかった。

頭の中の父は、仁王像のような顔つきと大きな体、ギラギラした目をした男だった。
そして時々、猫なで声で寄ってきて私の体をもてあそんだ。

威圧感のある下品でイヤラシイ男と小さい頃のヒーローだった父が混在していた。
それに、性虐待の記憶が入り混じり、怒りが強すぎて混乱し、うまく語れなかった。

悔しかった…
訴えたいことが多すぎて何から話していいか焦るばかり。

「少しずつ穴を埋めていくしかないね。」
というS先生の言葉を信じるしかなかった。

そしてシェアを重ねた。
何度も、もの凄く激しく泣かせてもらった。
知らない人達の前であんなに泣ける自分に驚いた。

もちろん、初めの頃は、みなさんを信じられなかったし、客商売をしていることもあって
「この中にお客さんがいたら……」
と思うとかなり気が引けた。

でも、他の方の話を真剣に聞くうちに、仲間が話してくれるから私も安心することができた。
みんな、その場を信じて一生懸命話していたから…

それに、私は一日も早く治りたかった。
過去のことで悩み、苦しむことから解放されたかった。

それに、生活も人生も懸かっていた。
パニック障害の症状を出しながらフランス料理のサービスなんてできない。
涙を流しながら料理を運ぶ店なんてありえない。
飲みすぎの体で、ダルそうに仕事をする店が続くわけがない。
店が潰れたら借金が残って家を失う。

だから私は語り始めた。

一度話し始めると次から次へと溢れ出てきた。
私は聞いて欲しかった。
一緒に泣いて欲しかった。
褒めて欲しかった。

「誠実に話すこと」
「先生の指示することを信じてやること」

私は患者だ。

クリニックに通うだけでは治らないことは他の病気と一緒だ。
そして何より、治ることで先生に恩返しができる。

「医者は患者が治ってくれることが一番うれしい」
といっていた先生を思い出しては、自分に言い聞かせた。

2008年4月後半、S先生から
「お父さんについて話してみなさい」
と言われたが、私は話をそらしてしまった。

父と向き合えない自分に腹を立てた。
“話しなさい” といったのに、言われたのに話しをそらしてしまうのは、自分にとって辛いことだからだ。

「辛い記憶なんていつまでも大切に持っていることないでしょう。」

と,S先生に言われた。
確かにそうだ…

私は踏ん張って話すことにした。
3週間、もがき苦しんだ後、私の頭に

《タオルをねじりハチ巻き B.V.D.のパンツ姿 サラシの胴巻きを巻いてハイハイしている父親が母親(妻)に泣きながら寄って行く姿》

が現れた。

そんな情けない姿の男が私の父親だった。
その姿が浮かんだとたん、腰から力が抜けた…

今思うと、過去の父を私から追い出した瞬間だったかも。

その後しばらくは、ヒーローだった父、私をもてあそんだエロ親父、ハイハイ親父、そして現存する謎の父がバラバラになって現れ、苦しんだ。
けれど、おかげでそれぞれに対する気持ちが整理できた。

その時々の父に対する気持ちは、どれも私の誠実な気持ちだった。
それはそれでいいと思えるようになった。

2009年の1月に、S先生と私、母、そして父を交えた親子面談をした日、別れ際に小さく縮こまって震えていた父の姿を見てしまった。
あの父の哀れな姿は、私には耐えられないものだった。

そして、親子面談後、自分の犯した罪を認められない意気地のない父親、小さく縮こまった父親、そしてそれを見て罪悪感が湧いてきた私、生き延びてきた私が戦った。

許すのか、許せるのか、受け入れるのか、永遠に断つのか。
どれが本当の私の気持ちなのか混乱した…

約1年が経ち、やっと正面から向き合う力がついたようだった。

そして、私は3年振りに実家に帰った。

何も答えはでなかった…
でも、いつか心にうかんでくる何かがあると思う。

今はそれを待つのみです。

2011.09頃(K)

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